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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔



「私は多分、少し他の鬼より"外れてる"だけ。血を飲み続けなきゃ飢餓で我を忘れてしまうし」

「で…でも蛍は、そのお陰で人を襲わないでいられるんだろう?」


 炭治郎の言うことは一理合ってる。
 …でもね。


「私はもう人を襲ったよ」


 半分当たりで、半分外れ。


「心底死んで欲しいと思った人間は、全員この手でその死に追いやった」

「…っ」


 炭治郎の顔は否定したい表情だったのに、その口は否定しなかった。
 多分わかったんだろうな。
 炭治郎は嗅覚がずば抜けて優れていると聞いた。
 匂いで、私が嘘をついていないことがわかったんだろう。


「ただ殺すだけじゃ飽き足らなかったよ。腹を引き裂いて、臓物を引き摺り出して、目玉を抉り出して、舌を引き千切って。その男達の断末魔を聞かないと気が済まなかった。だから喉は最後に引き裂いた」


 私と、姉さんを地獄へと追いやった。
 あの男達だけは許せなかった。


「で…でも…それは、何か、理由があったんだろう…? 喰べる為じゃなくて。蛍がそこまで憎んだ、理由が」


 戸惑いながらも、炭治郎が尋ねてきたのはお館様と同じものだった。
 お館様は迷いなき言葉で諭すように尋ねてくれたから、不安な色の残る炭治郎とは全く違うけど。

 でも驚いた。
 私が猟奇的殺人を犯したと言っても、私自身を見ようとする炭治郎の姿勢に。

 …だから珠世さんという鬼も、きっと炭治郎を信頼したんだ。


「理由は…あったよ。でも理由があれば、殺人は許される訳じゃないでしょ?」


 許せたら警察も鬼殺隊も要らない。


「だけど…正当防衛だって、ことも…」


 それでも尚どこかに宥恕(ゆうじょ)の綻びはないか探そうとする炭治郎に、自然と口元が緩んだ。
 …炭治郎は優しいね。


「炭治郎」


 その迷いながらも続けようとする口元に無事な手の人差し指を当てて、言葉を止める。


「炭治郎が話をしてくれたから。代わりに私も秘密の話をひとつ、するね」


 柔らかい唇に軽く押し当てた指先を離して、隣にいる炭治郎に向けて微笑んだ。










「私が、姉さんを殺した話」

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