第11章 鬼さん、こちら。✔
ってそんなこと悠長に考えてる暇じゃなかった。
「急いで帰らないと…っ」
今日は杏寿郎との鍛錬日。
まだ私が起きるには少し早い時間だけど、今から炎柱邸に急いで帰っても色々とぎりぎり。
先に杏寿郎の晩御飯も作らなきゃだし…っ
「蛍!」
そう急かしていた足が、不意に空から降ってきた声に止められた。
…空?
「…炭治郎?」
見上げれば、蝶屋敷の中にある隊舎の屋根の上。
其処に胡座を掻いて座る炭治郎の姿があった。
ただ座るというより、両手を両膝の上で掌を上に…座禅組んでるのそれ?
瞑想でもしてたのかな?
…屋根の上で?
姿を見ないと思ったら、あんな所にいたんだ。
「何してるの? そんな所で」
「瞑想してるんだ」
あ、本当に瞑想してた。
じゃあ邪魔しちゃ悪いかな。
「ごめんね、邪魔して」
「いやっ俺から声をかけたから。それに…っ」
「?」
何か言いたげに、でも言えない顔を…あ。
あの顔、昼間の訓練の時にも見た。
「そうだ」
ぽんと手を打って思い出す。
「炭治郎。瞑想の邪魔して悪いけど、少しいい?」
「え? うんっ」
「いいよ。私がそっちに行くから」
ただでさえ邪魔してるのに移動させるのは悪いと、腰を上げようとした炭治郎を止める。
こんな夜まで自主練してるなんて…偉いなぁ。
ほんの少しだけ身を屈めて、足先に力を入れる。
とんっと地面を飛躍した体は、脹脛の筋肉を使って簡単に屋根上に着地した。
瓦を落とさないようにと、できるだけ静かに着地する。
昔はそんな芸当、忍者くらいしかできないものだと思ってたけど。
そんな忍者も空想の存在かと思ってたけど。
この鬼殺隊では当然のようにできる人間がほとんどだし、忍者も実際に存在していた。
世界って広い。
「はい、これ」
「…包帯?」
「昼間言ってたよね。欲しいって」
炭治郎が座ってる屋根の中央の冠に、同じく腰を下ろす。
まだ指は完全には再生してないけど、傷口は塞がってるから包帯がなくても問題ない。
使用済み包帯をそのまま渡すのは流石にアレだったから、お風呂場で綺麗に洗ったそれを差し出した。