第11章 鬼さん、こちら。✔
「どうって。そのままの意味でしょ。その男性にとってその女性は特別なひとってことでしょ?」
「そう、なのかな」
そんな小心者の私とは裏腹に、あっさりとアオイは認めた。
だけど私は、あっさりとは呑み込めない。
「でも、隠として特別って意味だったのかも…仕事上の役目として?」
鬼として、特別だって。
そう言ってくれた可能性もある。
「それならそう言うでしょ。仕事上で伝えるなら、そんな意味深な言い方する?」
「…それは…」
「それともその男性は、誰にでもそういうこと言うような人なの?」
「っそれは違うよ。そんな人じゃない」
心を打つ言葉は沢山くれるけど、歯の浮いたような台詞を吐く人じゃない。
杏寿郎は、そういう人。
「じゃあ決まりでしょ。それとも、蛍は否定したい理由でもあるの?」
「…立場が、違うというか…」
私は鬼で、あの人は鬼殺隊の柱。
その足場はどうあっても崩せない。
「身分違いの恋ってこと?」
「似たようなものなのかも…」
「じゃあ想いはあるってことね」
「え?」
「元々その人に気がないなら、立場とか考える前に否定してるはずでしょ。そこで悩むのは、その人に対する想いが少なからずあるってこと」
「……」
「なら迷う必要はないじゃない。相手が世帯持ちでもない限り」
「…それは問題ないけど…」
私の、杏寿郎に対する想い?
…でも鬼と人との違いは、身分違いとかそういう次元じゃない。
「……」
「蛍は、もし禰豆子さんが誰か人間の男性を好きになったら、その想いは不毛だと言う?」
「禰豆子?」
押し黙る私に、急にアオイが不思議なことを問い掛けてきた。
なんで禰豆子?
答えは決まってるけど。
「不毛なんて言う訳ないよ。それが禰豆子の想いなら」
即答すれば、アオイの顔に初めて笑顔が生まれた。
「そうでしょ? 人や鬼の違いを障壁にしたいなら、まずは踏み出さなきゃ。まだ始まってもいないんだから。そしてその人は踏み出したんだから、その想いを不毛扱いしたら駄目」