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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



 二足歩行で立ち、片手を挙げて挨拶のようにチュウ!と鳴く。
 天元のように鍛え上げられた筋肉と、額中てをした小さな忍獣だ。


「よ、よろしくね」


 そんな小さな小動物に、律義に頭を下げる蛍の顔はどことなく高揚している。
 最初に見た時から、忍獣である鼠達には関心の強かった蛍だ。
 その姿勢は健在なようで、久しぶりに見た感情を表に出す顔に、天元も自然と口角を緩めていた。


「あ。そうだ」

「ん?」

「借りる話で思い出した。ずっとこれ、借りたままだった。ごめん」


 はたと顔を上げた蛍が、頭をまとめている簪の先を視線で示す。
 使い込まれた珊瑚色の珠簪には、光の加減で色を変える鮮やかな宝石も結び付けられている。
 天元の額中てに飾られている宝石と同じものだ。


「ああ。別にいいだろ、そのままでも」

「え、でも…」


 宝石は、元々天元から一時的に蛍に預けたものだ。
 鬼殺隊本部に戻ってきた時に返せと、物理的な生存の約束をさせる為の。

 約束は果たされた。
 その宝石が簪に結びつけられる理由は、もうない。


「花形花魁になるなら、それくらい派手な髪飾りくらいつけててナンボだろ。いいから着飾ってろ」


 軽く肩を竦めただけで蛍の訴えを流した天元は、視界の端で静かに主張するその宝石を改めて見る。
 花魁として着飾る為に一役買って出ているのもあるが、その小さいながらも輝きを失わない石が、蛍の髪を飾るのはなんとなく心地よかった。


(なんて、アイツが聞いたら怒るかね)


 蛍のこととなると、関心も加護も強くなるかつての炎柱を思い出す。
 元より蛍を鬼を誘き出す為の餌として、再び遊女として遊郭に放り込むことの方こそ怒られそうだ。

 それでも何より優先して守るべき宇随家の妻達が消息を絶っている現状。手段など選んではいられない。

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