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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



 誰かを傷付けるつもりはなかったが、結果的にきよ達を怖がらせてしまっていた。
 だからこそカナヲも行動したのだろうと、蛍の中では呑み込めた過去だ。
 ただ理不尽さは残っていたが、目線も合わず口も開かない人形のようなカナヲを問い詰めることなどできなかった。


「あの蝶屋敷でのこと? それならもう気にしてないよ。あれは私も悪かったから」

「で…も、痛い…思いを…」

「それは。うん。鬼だからまたすぐ生えてきたし」


 同じことを、その場に居合わせていた不死川実弥に告げられた時は盛大に「そういう問題じゃない」と突っ込んだことはこの際無視だ。
 いたいけな少女が、拳を握りながら懸命に謝罪をしているのだ。
 そこに今更責め立てる鬼のような心は、鬼であっても持ち合わせていない。


「でもありがとう。カナヲちゃんの口からそれを聞けて、なんだかほっとした」

「え…」

「あんまり話せたことなかったから。どう思われているかわからなかったし」


 過去、アオイや禰豆子も交えて共に入浴した間柄ではある。
 その時も敵視されていないことはわかったが、それ以外の感情はカナヲから読み取れなかった。

 不確定だったものが、少しだけ輪郭を成して見えたようでほっとする。
 その些細なようで大きな変化は、やはり炭治郎なのだろうか。
 唯一蛍が知っている、感情めいたカナヲの炭治郎に対する恥じらいを思い出す。


「もう痛くはないけど、カナヲちゃんのお陰でなんだか心が軽くなったみたい。ありがとう」

「ぁ…どういたし、まして…」

「あ、偉いね。お返事もちゃんとできてる」

「違ぇだろなんで指斬られた奴が感謝してんだ」


 ぴたりと両手を合わせて、指先だけでぱちぱちと拍手を送る。そんな蛍に、天元が冷ややかな突っ込みを入れた。
 一見のほほんとしたやり取りに見えるが、会話は大いに可笑しい。


「大体お前のその立ち位置はなんだ、保護者かよ」


 何故指を斬ってきた少女の成長に、微笑ましく拍手など送っているのか。

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