第36章 鬼喰い
鬼喰いと呼ばれている鬼殺隊に属する鬼。
それは炎柱の担当地区だけでなく、全国を駆け巡っているらしい。
常日頃から面を被っているのは、日光を遮る目的もあるのだとか。
というのも、鬼喰いは日中も地を駆け巡っているのだ。
鬼には人間には持ち得られない、驚異的な再生能力と無尽蔵の体力がある。
故に鬼喰いも休息など必要とせず、悪鬼を滅すれば次。と息つく暇もなく獲物を探しに行くのだという。
だからこそ制限された地区だけでなく、幅広い土地まで足を向けることができるのだ。
「凄いよなぁ。敵にすれば恐ろしいけれど、味方となれば心強いもんだ」
「凡そ人間業じゃないけど」
「そもそも人間じゃないだろ」
「ははっ違いない」
軽口を叩いて笑い合う。
同胞達の会話に参加する気にはなれず、村田は今一度追うように蛍が消えた場所を目で追った。
「さて、と。鬼退治は代わりにしてもらったけど、報告くらいはしないとな」
「あれ。でもそれもするって言ってなかったか? あの鬼…彩千代蛍が」
「そうだっけ」
「そうかィ」
「そうそ…う?」
流れるような会話は、同胞二人だけだったはずだ。
なのに明らかに声圧の違う音が混じり込んだ。
思わず相槌を打つ隊士も、その違和感に躓く。
「そいつはァ何処に行きやがった」
「か…っ風柱様!?」
「ひぇ!?」
反射で村田が振り返るのと、同胞二人が恐怖で飛び上がるのは同時だった。
見れば、いつの間に其処にいたのか。
稀に見る色素の薄い荒い髪に、顔にも体にも走る凶暴なまでの生々しい傷跡。
故人の炎柱も見開いた双眸を持っていたが、加えてその男は血走るような鋭さを持つ。
威圧さえ感じる風貌を持ちながら、直接声を聞くまでその存在に気付かなかった。
風柱である不死川実弥だ。
この地区は風柱の領域。
わかってはいても、これだけの存在を心構えもなく目の前にすれば緊張も走る。