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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 真面目な思案を口にすれば、こちらを見ていた炭治郎の瞳が優しく細まる。
 緊迫した状況には場違いにも思えるその顔に、思わず蛍は口を噤んだ。


「…まぁ、師範だし…ね」


 一呼吸置いて当たり障りなく返せば、すんと鼻を鳴らした炭治郎が笑う。


「それもあるけど。なんかこう、上手く言葉にできない感じでさ。二人には俺の鼻でも嗅ぎ分けられない、深い繋がりがあるんだろうなぁって。だから俺の前ではわざわざ師範呼びしなくても大丈夫だぞ」

「え」

「蛍が一生懸命な時は、真っ直ぐに煉獄さんのこと呼んでいるし。二人の関係を形作っているみたいで、俺も嬉しくなるから」

「ぅ…嬉しくなるって…」

「よし、それじゃあ俺達もぐずぐずしていられない。行こう!」

「えぇっいや行くけど。行くけどねっ!?」


 最初こそ杏寿郎と蛍の関係によく頬を赤らめていた炭治郎だったが、形だけではない二人の深い繋がりを知れば知る程、感じ方も変わっていった。

 人間と鬼。
 自分と禰豆子にも通ずる二人の間柄だからこそ、こうも嬉しくなるのだろう。

 満足そうに一人笑うと、早速とばかりに踵を返す。
 戦場へと向かう炭治郎に蛍も慌てて後を追った。


「俺は右の車両を行くから、蛍は左を頼む!」

「あ、うんっ」

「それと禰豆子には」

「任せて。状況は伝えられないけれど、今すべきことは伝えられると思うから」


 朔ノ夜は己の術のようで少し違う。
 自分の支配下を一歩離れたところにいるような異質な存在だ。
 意思を共有しながら、自分とは別物にあるもの。

 そこへ念を飛ばすように、蛍は繋ぎである通路へと下りながら後方に目を向けた。


(本能で善悪を判別できる禰豆子なら、列車の異変にいち早く気付けるかもしれない。周りの人々はきっと守れる)


 しかし人手は足りないだろう。
 幼い鬼少女の爪と牙よりも更に鋭く、更に先まで届く炎の刃を思い返して。


(早く起きて。杏寿郎)


 彼の目覚めを願った。






























「──…ん?」


 ふと顔を上げる。
 雲の少ない晴天を見上げた金輪の双眸は、何かを辿るように語尾を傾げた。

 誰かに、呼ばれたような気がして。

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