第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは

「んッぁ…っあッ杏、寿郎…ッ」

「は…ッああ、」


　ぱちゅり、ぱちゃりと愛液が混ざり跳ね上がる。
　卑猥な水音の他に響くのは、互いの熱い吐息と愛を囁き合う声だけ。


「きもち…ぃ…っもっと…ッぁ…！」

「っふ…何度抱いても締まりが強いな…っ飲み込まれそうだ」

「ぁうッあ、は…！　ま、た」

「ここ、だろう？」

「そこ…ッぁッ」


　跨る股座から深く突き上げられる。
　全体重がかかる目の前の体に縋りながら、蛍は何度目かわからない高まりに視界に火花を散らせた。

　どう足掻いても深く繋がる対面座位は、本来なら上に跨る女が主導していくもの。
　柚霧として身売りをしていた時は、好きな体位ではなかったが楽ができると用いていた。
　自ら腰を揺すり、角度を変えて、男の欲を搾り取っていたものだ。

　しかし杏寿郎相手となると違う。
　体位故に本来なら男は上手く動けないはずなのに、鍛え上げられた肉体を持つ杏寿郎には問題にもならなかった。
　易々と蛍の桃尻を掴み上げ、力強く腰を振ってくる。
　その度に体重をかける重い律動は、ずんと蜜壺を震わせ電流のような快感を走らせた。

　深く、響くような刺激を送り込まれる度に、呆気なく絶頂へと追い立てられる。
　何度果てただろうか。
　繋がる下腹部からは夥しい水音のような愛液が迸った。


「またきちゃ…ッんっぁあ…！」

「っ…！」


　幾度目かの絶頂で、二度目の杏寿郎の熱い飛沫を貰った。
　どくどくと体全体が脈打つような早鐘を感じながら、縋りついていた腕が力を失くしてふらりと背後に落ちる。

　倒れそうになった蛍の背を抱き止めた杏寿郎が、体を密着させるようにして強く抱きしめた。


「は…っぁ…ぁ…」


　互いに発熱したような熱い体温の中、更には蜜奥で感じる精の熱。
　ひくんひくんと余韻を残して震える蛍を、掻き抱いたまま深く杏寿郎は息を吐いた。