第24章 びゐどろの獣✔
「なぁ…あれ、」
「うん…」
「なんで"どっせい"なんだ?」
大人の神輿渡御に混じる、子供達の神輿渡御。
野太い男達の声とは違う、高い子供達の無邪気な掛け声が飛び交う様は、微笑ましい。
微笑ましいが、何故かその掛け声は「どっせい」だ。
「おい見ろよ、今年の子供神輿の保護者」
「ありゃあ煉獄さんちの…」
「杏寿郎くんか!」
「珍しい毛色がいるかと思ったら、千寿郎君まで」
「あはは! 祭のような男だと思っていたけど、本当にお祭り騒ぎだねぇ!」
どっせい、どっせい、と高らかに声を上げ、汗を飛ばし、神輿を運ぶ。
一番小さな神輿が一番目立つ様に、蛍は村人達の中で竹笠の縁を摘んで深く傾けた。
なんだか恥ずかしいような、でも誇らしいような、不思議な心地なのだ。
(──あ)
それでも一心に目に焼き付けようと見つめていたら、小さな焔色の頭と目が合った。
思わず反射で両手を丸くして、口元で筒を作る。
「ど…どっせい!!」
掛け声に合わせるように、千寿郎に声を送る。
届いたかはわからない。
しかし一生懸命に担ぎ棒を上げる険しさの混じる顔に、笑みが宿ったような気がした。
「はは、姉ちゃんも威勢いいなぁ!」
「どっせいか。面白い」
「えっ…あ、その」
「そーら、どっせい!」
「どっせい! どっせい!!」
蛍に感化されるように、周りにいた大人達も掛け声を上げ始める。
少しばかり恥ずかしいような、それでも嬉しいような、不思議な心地だった。
周りの熱気に自身の胸も、どくどくと脈打ち高鳴る。
共に担いでいる訳でもないのに、まるで一緒に神輿を支え合っているかのような気分だ。
やがてはその場で踊り明かしていた神輿達が、進み始める。
最終目的地である御旅所に向かう為だ。
神輿を囲う観光客達も、それに合わせて歩みを進める。
蛍もまた習うように行列に続いた。
行き交う沢山の人々。
竹笠の下から狭い視野をどうにか広げて、子供神輿を見失わないようにする。
黄金色に輝くそればかりに集中していたからか。一瞬、気付くのが遅れた。
視界に入る──見知った顔に。