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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「大丈夫?」

「平気だわァ…」

「面目ない…」

「じゃ、ないみたいだね」

「お水、持ってきますねっ」

「ありがとう、千くん」


 居間の中。
 ぐったりと横たわる二人の柱を、二つの顔が見下ろしていた。

 一つは、水を持ってくると台所へ駆けていく。
 残る一つは、二人の頭の傍に腰を下ろしたまま、うちわをぱたぱたと仰ぎ続けていた。


「まさか湯当たりするまで長湯するなんて。積もる話でもしてたの?」

「はは。似たようなものだ」

「そんなんじゃねェよ…」


 相反する二つの返事を返すは、杏寿郎と実弥。
 二人で入浴へ向かったかと思えば、長いこと時間を要していた。
 結果、逆上せ上がるまで出てこなかったのだ。


「でもこういう姿を見ると、ちょっとほっとするかも。柱も人間なんだなぁって。はい、頭に座布団引いて」

「む…すまん」

「当たり前だろォが。何言ってんだ」

「私から見れば全然当たり前じゃないよ。常人らしかぬところ、沢山あるし」


 横たわる二人の頭に半分に畳んだ座布団を敷いていく。
 蛍のその様はどこか嬉しそうにも見える。


「あ、待って杏寿郎。それ髪に変な癖がつく」

「頸の後ろが一等暑くてな…結んでしまえば楽か」

「待って。私するから、休んでて」

「む」


 量のある長い髪は、逆上せた肌には鬱陶しい。
 座布団の上に掻き上げ寝そべる杏寿郎の頭に、蛍が手を伸ばした。


「まだ半乾きだから、結んでも跡残っちゃうし。肌が冷えるまで辛抱ね。頭、横にして」

「う、む」

「これなら涼しいでしょ?」

「…うむ…」


 座布団から己の膝へと移動させた杏寿郎の頭を、優しく横に向ける。
 指先で髪を掻き上げながらうちわで優しい風を送る蛍に、自然と太い眉もゆるりと下がる。

 甲斐甲斐しく世話をする蛍の姿にも目を見張ったが、実弥が何より目を疑ったのは杏寿郎のその表情だった。


「…近年稀に見る阿保面だなァオイ」


 こんなにも緩み切った炎柱の顔など見たことがあっただろうか。
 いやない。

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