第22章 花いちもんめ✔
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「あれ? 体、戻しちゃったの? 残念」
ようやく童磨の腕の中から解放された後も、すぐには動けなかった。
稀血の効果で発熱する体を落ち着かせるように、拝殿内の隅でじっと座り込んだままの蛍の体は、再び幼い少女のものへと変貌していた。
身なりを整えた童磨が、にこにこと頸を傾げて顔を覗いてくる。
鬼の中でも造形の整った部類に入るであろう、童磨のその顔をぼんやりと蛍は見返して。
「俺は普段の蛍ちゃんが好ギッ」
唐突に振り絞った小さな拳は、メゴッと鈍い音を立てて童磨の顎を凹ませた。
「えっどうしたの? 怒ってる?」
「その問いが出ることが凄い」
「…そうかなあ…」
「褒めてないから。頬を染めるな」
骨を軋ませる程の打撲が、瞬く間に再生する。
一瞬見逃せば、怪我など気付かない程の速さだ。
その様に眉間に皺を寄せる蛍にも、童磨は気にした様子など一つもない。
「じゃああれかな。中に出したこと、まだ気にしてるのかい? 鬼同士は孕まないから、何も心配はないよ。鬼を増やせるのは無惨様だけだからね」
「…そういう問題でもない」
その事実を聞かされた時は、確かに安堵した。
だからと言って全てを許せる訳ではない。
あっけらかんと笑う童磨をじとりと睨んでいたが、それも飽き飽きとばかりに蛍は顔を逸らした。
「もういいよ。満足したなら帰ったら」
空色のべべの袖に、腕を通して着込んでいく。
再び少女の姿を借りたのは、こうしなければ外に出ることもままならないからだ。
「うん。じゃあ帰ろうか」
「……は?」
その手を当然のように握られる。
目を丸くして握られた先を辿れば、蛍の目に再び見たくもない顔が映り込んだ。
「俺、蛍ちゃんと交合して益々好きになったんだ。その体。やっぱり蛍ちゃんを傍に置いておきたいから、一緒に帰」
「るかァア!!」
「あ。」
ボキンッと嫌な音がする。
今度は渾身の力で握り返された童磨の指が、あらぬ方向へと折れ曲がっていた。