第14章 温泉旅行へ*1日目夜編*
「ごめんなさい」
秀吉が襖を閉めるより早く発せられた言葉。ああ、やっぱりそれをいいに来たのかと、秀吉は苦笑する。うまく、笑えていない。
「いいんだ…もう、忘れてくれ」
秀吉の言葉に、自分の謝罪が違う意味にとられていることに気付き、焦る。
「ち、違うよ!!」
「…は?」
「さっきのこと、謝りたいの。泣いて逃げて…秀吉さんにひどいこと、したでしょう」
「先にそうされるような原因を作ったのは俺だろう?ほんとに…ごめんな」
そういった秀吉は申し訳なさそうに笑っていて。こんなに傷ついた顔で笑うのを、初めて見た。いつも桜のことを見守っていて、少し過保護に世話を焼いてくれて。
「秀吉さん」
今の自分が、優しい秀吉に少しでも笑っていてもらうために出来ること。
「私…正直に言って、自分の気持ちがまだよく分からない」
ぎゅっと握った手を見ながら、一つずつ言葉を探す。
「秀吉さんのこと大好きし、とても大切。想いを伝えてもらえて、嬉しかった」
じっと、話を聞いてくれている秀吉の視線を感じる。
「口づけ…されたとき、驚いたけど…嫌だなんて思っていないよ」
「……っ」
思いきって顔を上げれば、驚いたような顔の秀吉と視線がぶつかる。
「泣いた理由は、まだよく自分でも分からないけど。私…ここで軽々しく返事をしたくないの」
「桜…」
「自分の本当の気持ちも良く分からないまま返事するなんて、真剣に想ってくれる秀吉さんにも…他の二人にも、失礼だと思うから。だから…もう少し、考えさせてください」