第14章 温泉旅行へ*1日目夜編*
ろうそくの明かりに、桜の顔が照らされた。
「…桜様。お顔の色が優れませんが…」
「あ…いえ、大丈夫ですから」
あまり見られたくない。吉次には悪いけれど、早く立ち去って欲しい、という願望もむなしく。吉次は桜の手を取る。
「桜様。何かあれば、この吉次がお守りいたします」
「ありがとうございます…」
面食らいながらも礼を言っていると、視界の端に秀吉の姿をとらえた。今最も、話をしなければいけない人。
「桜様?」
「ごめんなさい、吉次さん」
掴まれていた手を半ば振りほどくようにして、駆けだす。
「秀吉さん!」
部屋に入ろうとしていた所を呼び止めると、ぎょっとして踵を返される。
「待って!」
咄嗟に腕にしがみついた。戸惑いの表情で見下ろされるけれど、それどころじゃない。
「桜…」
「ひ、秀吉さん、あの」
必死な桜の姿に、ふっと笑って部屋の襖を開ける。
「入れ。中で話そう」
「う、うん」
入る直前、吉次の事が気になって振り返る。けれど、そこにはもう誰の姿もなかった。