第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
舟の上。
茂る木々。
揺れる水面。
柔らかな風。
なびく髪。
反射する光。
輝く瞳。
…横顔。
出来すぎた風景に二人。
それが霞んで見えるほどに、今の桜は美しい。からかうどころか、声をかけることすら憚られる。
言葉を発して、今の空気を壊したくない。ただその横顔を眺めていると、ぱっと光秀を見た桜と目が合い、鼓動が跳ねる。
何でもないふりをして、食事をとって。うとうとしだした桜を都合良く子ども扱いすることで、触れる口実を作った。
自分に身体を預けて目を閉じ、寝息を立てるその顔にしか、本音を漏らせない。
我ながらずるい…いや、この場合は。
臆病、というのだろう。
舟を下りて手を取った。子ども扱いをし続ける理由は、からかうのが趣味の普段の自分を保つため。それに、桜を子どもとして扱うくらいしなければ、もう自分を抑えられない。ごまかせない。
はしゃぎながら川で水遊びをする桜は、あながち子どもに見えなくもなくて苦笑する。邪魔されることのないこの時間を、いつの間にか楽しんでいる自分がいて、もう子ども扱いしてからかうことすら、どうでもよくなっていたけれど。
素直すぎることが、この娘の欠点と言えばそうなのだろう。思っていることがすぐに分かる。
政宗の事でも、考えていたか。
誰かを想い、夢を見ているような顔の桜も良い。だが、その誰かが自分以外であることが、こんなにも面白くない気持ちにさせるとは。
…嫉妬。俺が。
抑えていたはずの心は暴れ、半ば理性の飛んだ己に抗うのを止めた。
一度触れてしまうと、もう抑えがきかない。逃すまいと無理矢理塞いだ吐息も、絡む舌も。すでに自覚していた想いを、より強くさせた。
こんな触れ方をすれば、もう戻れなくなることは分かりきっているのに。
ああ、本当に。
…参った。