第5章 蒔かぬ種は生えぬ
ムーメは近くのデスクにあったメモとペンを取ると、メールアドレスを書くとトド松にそれを渡した。
「えー、フリーのメアドじゃん!」
トド松は不満げな視線を送るが、『充分でしょ』と一蹴されてしまう。
ムーメは自分のスマホで時間を確認し、再び扉へと向かう。
ドアノブに手を掛け、扉を開いたところで振り返る。
『じゃあ、今度こそ本当に行くから』
「うーい、頼んだよー」
「無茶するんじゃないぞ」
「いってらっしゃインフィールド!」
「着いたら連絡してね!」
兄弟達も各々言葉をかけ、今度こそ小さな殺し屋を見送った。
「行っちゃったねー!」
窓から手を振るのをやめた十四松が声をあげる。
頭の上に乗っかっていたブラインドがカシャン、と音を立てて落ちる。
「僕たちもそろそろ準備しないとね。
十四松兄さん武器庫付き合ってくれないかな?」
「ん、いいっすよ!」
窓から離れた十四松を見て、トド松が操作していたスマホをデスクに伏せる。
十四松は滅多にトド松の頼みを断らない。
いつもどおり快諾する。
「お、じゃあおにーちゃんにも何かとってきてよ」
廊下へ出ようとする二人の背中に、おそ松が思いついたように声をかける。
「そんなコンビニ行くついでみたいなノリで武器取ってきてって言うのどうかと思うんだけど」
ソファーに寝転がったままのおそ松にトド松が振り返る。
目を合わせるとおそ松はニヤリと笑う。
「…いいけどさー、後で文句言わないでよね」
「言わない言わない」
トド松はその表情で何か感じ取ったのか、口では渋々だがどこか悪戯っぽい表情を浮かべながら十四松を連れて部屋を出て行った。
「いやー、トド松は空気読める子だねえ」
二人が階段を下りる音が聞こえた頃、おそ松は独り言にしては大きな声でそう言った。
「俺は誘われなかったな」
「お前は空気が読めるんだか読めないんだかわかんねーな」
おそ松が呆れたように笑う。
俺は近くにあったイスに腰掛けた。
「昨日のことか?」
「そー。お前が放火したの、結構びっくりしたんだから」
俺とおそ松は目を合わせず、弟達の出て行った扉をぼんやりと見ながら会話する。
上着のポケットからタバコを取り出し、一本銜えて火をつける。
ゆっくりと吐き出した煙がユラユラ目の前を漂う。
「俺はそういうことかと思ったぞ」