第5章 蒔かぬ種は生えぬ
「そういうこと、ねぇ」
おそ松もタバコを一本取り出し銜えるが、ライターが見つからないらしくポケットを服の上から手のひらで叩く。
見かねて自分のライターをおそ松に向かって放り投げる。
適当に投げたそれをおそ松は器用に寝転んだままキャッチするとタバコに火をつけ、一息吸う。
目を瞑り、ふー、と細く煙を吐き出していく。
「ムーメを仲間にしたい、って言ったのはおそ松だろ?」
昨日はチョロ松と一松の情報集めの為町を歩き回っていたが収穫が得られず、夜も遅くなり諦めて帰ろうかとしていた。
帰り道、トド松からのメールを見て、兄弟が殺し屋と接触できたのはわかった。
俺はメールに従い、送られてきた住所の家を調べようと向かっていた途中でおそ松からのメールが来た。
メールにはただ一文、「今日来た殺し屋、仲間にしたいからよろしくね」とだけ書いてあった。
「だったら帰る家は必要ないだろう?」
「お前怖すぎ」
今度は二人同時にタバコを口につけ、煙を吸う。
「本気だと思ってもらえない中途半端なアプローチじゃレディは振り向かないぜ?」
指を指すようにおそ松にタバコの先を向ける。
ゆるゆると登る煙の向こう側でおそ松が苦笑する。
「お前って本当なんていうか…。
まあいいや、お前はそのままでいいよ」
でもレディーならもうちょっとおっぱいないとなぁ、と笑う。
俺は、そうか、と納得したフリをする。
「おそ松の好きにしたらいいさ。
お前が俺達のボスなんだからな」
これは本心だった。
なんだかんだ言いつつ、最後は長男の言うとおりになってしまうのだ。
おそ松は一瞬ポカンとこちらを見たが、すぐに扉のほうを向いて笑顔を浮かべる。
「案外長男も悪くないね」
「ムーメには悪いけどな」
目が合い、笑いあう。
昔と変わらない、自分と同じなのに、自分とは違う笑顔だ。
階段をタカタカと上ってくる足音を聞いて、おそ松は灰の落ちそうなタバコを灰皿に押し付ける。
「さあって、俺達も行くか」
おそ松がソファーから立ち上がり伸びをする。
その直後、勢いよく開かれた扉の向こうには十四松とトド松が立っていた。
俺も立ち上がり、扉に向かう。
「OKだブラザー」
ムーメは俺に『優しい』と言ってくれたが、
すまない、違うんだ。
俺はいつだって、お前達の役に立ちたいだけなんだ。
