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第26章 帰郷


「…って、もしかしてこの話をするために俺を?」

「半分はそうですね。あちらの世界でするには、些かこちらの世界の情報が多すぎる…流石にそれは拙い」

「!半分はって…」

「もう半分は…僕とこの子のためです。貴方に何かを遠慮しているわけではなくて……ほら、だって澪さん甘えただから、不安なままじゃ眠ってくれないんですもん」

困ったように笑う浦原さんに、こちらも笑顔になる。

「なるほどな、“麻酔”として上手く使われたもんだ…ちなみに、催淫剤は本当に?」

「嘘ですよ、このこの場合は本気で思い込めば擬似催眠にかけやすいですし。…中原さんはしばらくどうされます?僕は一度、現世へ赴くつもりです」

「!現世…?この世界の、か?」

「はい、これでもしがない駄菓子屋を営んでまして…現世にも澪さんの知人さん方はいらっしゃいますし、尸魂界での僕の家にはもう誰も住んでいませんから」

少し悲しげな表情をしたその人に、この人も尸魂界を追放された経験のある人物であったと思い出した。

「僕が突然いなくなってからも、ものすごく綺麗に大切に使ってくれていたんですけどね…僕のいない間はこの子が。そして、この子がいない間は僕が……もうあの家は、とっくの昔から“僕達の家”ではなくなってしまっている」

「…じゃあ俺と蝶が尸魂界に来てから結婚したら、その家を使わせてもらおうか」

「おや、それは名案だ…ロマンチストですねえ中原さん?」

「そんなんじゃねえよ…って、尸魂界に来たら…?」

ピタリと思考が停止する。
どうしました?と不思議がる浦原さんに向かって、ふと思い立ったことを口にした。

「…俺達の世界における五年弱前……それくらいの頃に、織田作之助っていう人物がこっちに来なかったか…?」

「…来てはいるんでしょうね。けど、分かりません…この世界に来てから生前の記憶を持ち合わせているような人、いるのかどうか」

「!記憶が消えるのか…、?」

「個人差はありまして、記憶を持っている人がいると聞いたことがないわけではありませんが…澪が記憶を持ち合わせているのは、そもそもが魂魄だけの存在ではないからでして」

「…じゃあ俺と蝶が死んでここに来たら…?」

「ふふ、さっきやり方は教えたでしょう?…貴方達は、それを防ぐ手段を持っているんです…僕にヴァージンロード、ちゃんと歩かせてくださいよ」
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