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第26章 帰郷


「ちなみに澪がちゃん付けで呼ばれたかったのはあれやで?喜助が最初、ちゃん付けで呼んだらすごい懐き始めて…」

「あの人は元々そんなに口の悪い人じゃなさそうなのに?…今でもさん付けじゃねえか?」

『……親子、みたいで好きだったの…それだけ』

特に深い理由があるわけでもなく、ただ本当にそれだけのこと。
元々の肉親は、私を表に出さざるを得ない時に限り、私を呼称していた。

何と呼ばれていたのかは分からなかったし覚えてもいないのだけれど、恐らくそれは名前などという大層なものではなく、ただ私を人に認識させる際に便利な名詞をとったに過ぎなかったもの。

そしてそう発音される時、決まっていつも、最後に他人行儀な言い回しをされるから。

だから、喜助さんの扱う言語に触れて、意味を理解していって、彼に名前としてそう呼ばれるのが嬉しかった。

年齢やそれぞれの立場の関係で今のような呼び方に戻りはしたけれど、それでも。

『…でも喜助さんね?焦って余裕がなくなったら…すごく珍しいんだけど、私のこと澪って呼び捨てにするの。……すごく大事にされてるんだなって、わかるの』

「…ちゃん付けに戻したろか?」

『今更気持ち悪いから却下』

「あんな嬉しそうにしといて…」

嬉しいよ、嬉しくないわけないじゃない。
だって、真子がちゃん付けする子って…可愛い子達ばっかりって知ってるし。

でも、それ以上に呼び捨てにされる人間をどれだけ大切に思っているのかも知ってる。

私のこと、ずっと追いかけようとしてたのも。
ちゃんと生きててくれたのも。

「それやったら、なんなら俺もこれから蝶って呼ぼかなやっぱ」

『…お好きにどうぞ……中也なんて気分で使い分けてくるの』

「おお、確かにそれは便利やな…しかも白石澪と中原蝶と二つつこたら、お前中也の嫁のままでも喜助の娘のままでもおれるやんけ」

真子の一言に少し衝撃を受けた。
まさか、なんて思って中也の顔をゆっくりと見据える。

…私はそんなことを自分から一度もお願いしてなんていない。
だけど、やっと分かった、まとめて大事にしてもらうってこと。

『……中也さん』

「どうした?」

『…今日パンケーキ食べて帰ろ?後クレープ!アイスとあったかいデザート一緒に食べたい!』

「おっ、美味そうだな…了解」

私なりの愛情表現…照れ隠し。
素直ってやっぱり難しい
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