第25章 収束への旅路
「…蝶さん?流石にきつくないかその姿勢」
調理中の俺の足に両腕を回して抱き着いてくる俺の天使。
今すぐ抱きてぇ…
しかし耐えろ俺、今は夕食が先決だ。
それに相手は六歳児、頻度も抑えなければ。
『大丈夫なの…、フライパンより蝶の方がくっついてるの』
「何と張り合ってんだよお前は…」
くっそ可愛い、何こいつ。
言葉に出せない分存分に撫でる。
甘えたあとだとすぐにこれだ…役得にも程があるだろ俺。
いいのか?これで…いや、いいんだこれで。
ウィンウィンの関係じゃあないか、お互い心地いいんだし。
そうだ、いいんだこれで。
謎の自論を展開しつつ、調理を終えてテーブルへと向かう。
「…あ、悪い蝶、今日普通に何も意識しねぇでサラダにトマト乗せちまったから俺が食べ____」
ふと、彼女の眉間に寄る皺を見て、ピタリと思考を停止させる。
そして俺は、彼女から驚きの一言を聞き取った。
『…食べる』
「……蝶さん?俺が食べるから、お前は食べなくてもい『食べるったら食べるの!!!中也さんのサラダ蝶だってちゃんと食べるの!!文句ある!?』な、無いけどですね!!?」
嘘だろ、一体どういう風の吹き回しだ…あの蝶が?
数少ない嫌いな食べ物に値するプチトマトを?
食べる?食べるっつったよな?今。
『いいから食べるの…っ、………は、半分に切ってくれた方が嬉しい…です』
「…喜んで半分にするわ」
サラダ…という名の前菜なのだが。
夕食を自分一人で作るのが久しくて、つい乗せてしまった。
だから自分で食べようと思ったのに…本当にどうしたんだ?こいつ。
『……中也さんの作ったの、ちゃんと食べるもん』
「…俺のこと好きだから頑張ろうとしてるのか?」
『!!!?…ち、ちが…ッ…そんなのじゃなくてその…っ、と、トマトしかない世界になっちゃったら困るから訓練を…!!』
あっ、図星だこいつ。
隠すの下手くそかよ可愛いなおい。
「……そうか…俺のことが大好きだからじゃないのか、残念だなぁ…」
『!?ち、違うよ!!?中也さんのこと大好きだから頑張ってトマト食べるの…!!!……あ、っ…ああああ…!!!!』
赤面して煙を出す蝶が愛おしくて、ついつい笑ってしまう。
ああ、本当にこいつは…
「…可愛いやつ。…俺が食べさせてやろうか?」
『え…、……は、い…』