第11章 グレイscene4
コンサートツアーが始まる月。
ばたばたと立て込んではいるが、コンサートに向けてレギュラー以外の仕事は減っていたから、なんとなく余裕のある日々が送れていた。
今年はアリーナツアーにオリンピックと目白押しだったから、少しの余暇も俺には嬉しかった。
もうあとちょっとで札幌。
頑張ろう。
「翔ちゃん」
レギュラーの収録が終わって楽屋から出ようとしたら後ろから声を掛けられた。
「智くん、どうしたの?」
キャップを目深に被ったまま俺に近づいてくると、小さな声で俺に話しかけてきた。
「この後、時間ない?」
「え…帰るだけだからあるけど…」
「じゃあちょっと飲みに行かない?」
「うん、いいよ」
マネージャーに言うと、渋谷まで送ってくれると言う。
行きつけの飲み屋に行くと個室に案内された。
「さて…ビールでいい?」
「うん…」
さっきから口数が少ない。
いや、いつも少ないけど…もっとだ。
「…どうしたの?何か悩み…?」
店員さんにビールを2つ頼むと、俺はおしぼりで手を拭きながら話を振った。
「うん…」
いじいじとネルシャツの裾を弄ってる。
そこに店員さんがジョッキを運んできて、俺達の前に置いてくれた。
店員さんが出て行くと、とりあえず乾杯する。