第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
ーーーお守りは一度だけ刀剣の破壊を防いでくれるものらしい。
彼岸花は傷だらけで倒れる岩融を前に壊れたお守りを握っていた。
彼岸花に、目立つ怪我はない。精々擦り傷や、掌の傷、脇腹の傷と前に出来たものの方が酷いくらいだ。
対して岩融の傷はどうだ。体のあちこちから血を流して、顔には何処かに引っかけたのかずるりと皮が剥けて皮膚が露になるくらいの傷が出来てしまっているじゃないか。
そして一番酷いのは右足。彼の右足は、酷く不格好になって、曲がる方向を間違えてしまっている。
これら全てが意味すること。それはつまり、
(お守りが岩融さんを守ってくれた。そして、岩融が私を………)
前に、彼岸花を優しいと言ってくれた存在が居た。
でも、本当に優しいのはこうやって誰かをただ助けられる人なんじゃないだろうか。
(あぁ、やだな………)
「ごめんなさい。ありがとう………ありがとうございます。岩融さん、太郎さん、皆………。岩融さん、お願いだから目を覚まして…」
彼岸花の意思とは関係なく、肩が震える。
両目から止めどなく涙が溢れてきて、彼岸花はそれを拭う事もせずに泣き続けた。
「よか、よかった………しな、し、死ななくて」
嗚咽を繰り返しながら言葉にする。
そんな声は、静かに森の中を木霊していた。
「……………それで、助かったのか」
岩融の手当てをしながら彼岸花は頷く。
「いやー、本当にありがとうございました。岩融さんが居なかったら私なんてミンチ状態でしたよ。というか、ミンチの一歩手前で蘇って生き地獄を味わってましたよ」
はははっ、と彼岸花は軽快に笑い飛ばすが、岩融の表情は固いものだった。
「………………………何故、泣いておった」
「………………………………………………それ、聞きますか。うーん、何故って。貴方が死んだら悲しいからですよ。」
「それが解らん。お主にとって、俺は敵と変わりないだろう」
岩融はそっぽを向いて拗ねた様に言った。
彼岸花は微笑む。
「貴方にとってもそうじゃないんですか。」
「………そうだな」
「……………………………だけどね、私は貴方を失いたくないと思ったんです。」
「俺がお前を助けたからか。随分と単純なんだな」
「違いますよ。貴方が、敵のような存在であっても、迷わず助けられる優しい人だからです。」
