• テキストサイズ

孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第23章 Sad Monster【ドリフターズ】


「あの……此処は一体何処なのでしょうか?」

まだ湿り気の抜けない小袖を身に纏った女は、相も変わらず人懐っこい目をして俺に問い掛けて来た。


「お前……死んだだろう?」

「え……?」

「《向こうの世界》で命を失った筈だ。」

碌に女の顔を見る事もせず着衣を整えながら軽々と語る俺に、流石の女も不審気に顔を曇らせる。

「私……確か…
 崖から海に落ちてしまって……
 そのまま溺れて……
 流されて来た所を貴方が救ってくれたのではないのですか?」

「いや……
 お前は気が付いたら
 ずぶ濡れで俺の隣に倒れていた。」

「………???」

何を言っているのか皆目見当も付かんのだろうな。

逐一説明した所で、理解出来るとは思えん。

それに肝心なのは………

この女が《どっち》であるか…という事だ。



海に落ちたと言っているのにこんな山奥に居る今が納得いかぬのか、女は腰を下ろしたままキョロキョロと辺りを見回している。

女の目前に屈み込んだ俺は、その細い顎を掴みぐいと顔を寄せた。

「お前は何を恨んでいる?」

「恨む……ですか?」

「そうだ。
 何を許せない?
 身体中が引き千切られそうな程に
 何を憎んで、何を恨んでいる?」

女が本心を曝け出せるよう、態と低く誘導する如く問うた俺を真っ直ぐに見上げるその目には、やはり一点の曇りも見えない。



………此奴は《違う》。
/ 834ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp