第44章 ・スマホと大切なもの

何とあの牛島文緒がスマホデビューする事になった。白鳥沢に編入するずっとずっと前から使っていたガラケーの動きが不安定になりつつあるからだ。文緒としてはまたガラケーでも良かったのだが義母からこのご時世スマホでないと何かと不便すると言われお言葉に甘える事にした。今度の休みに義母に付き添ってもらい手続きする事になったのだが

「兄様もいらっしゃるのですか。」

文緒はぴょこんと義兄を見上げ、義兄は黙って頷く。当たり前だと言わんばかりだ。

「お母様と行くのですからご心配なさらずとも。」
「念の為だ。人目を惹く娘は油断出来ない。」

こいつもなかなか譲らない。

「兄様のお陰で人目をひいている事もしばしばですが。」
「何の話だ。」
「自覚なしですか。」
「とにかく俺もいく。」
「承知しました。ただお待たせする事はお許しくださいね。」
「手続きがある、仕方ないだろう。機種は決めたのか。」
「はい。」
「林檎印か。」
「いいえ。」

若利は首を傾げる。無理もないかもしれない。

「お前がいつも持っているあの薄い端末は林檎印ではなかったか。」
「そうです。」
「操作性を考えると合わせた方がよいように思えるが。」
「私もそう考えたのですが」

文緒は一瞬口籠った。何となく言いにくく感じたのである。