第12章 退紅(あらそめ)scene2
「翔くん」
「なあに?智くん」
「これ…どうしたの?」
智くんの手のひらには、真新しい鍵が載っている。
「ん…引っ越したんだ…」
「え?」
「それ、あげるよ」
「俺に…?」
「うん。どう使うかは、智くんの自由だよ」
「え…?」
頬を染めて、智くんは鍵を見つめた。
「なんなら…引っ越してきてもいいよ?」
まんまるに見開いた目を、俺に向けてきた。
「そんなに驚くことないじゃん…」
「でも…翔くん…」
「今の家、そろそろ出るって言ってなかった?」
「え…うん…翔くんに会うのに不便だし…部屋、探そうと思ってた…」
「じゃあ…ちょうどいいんじゃないの…?」
「翔くん…!」
がばっと智くんが抱きついてきて。
あのいい香りが、鼻孔に飛び込んでくる。
すうっと吸い込むと、ぎゅっと抱きしめた。
「傍に…居たい…智…」
「翔…」
そのまま抱き合っていると、楽屋の外に人がくる気配がしたから、そっと身体を離した。
「また…今夜…」
そっと言って、智くんは離れていった。
また、あの微笑みを浮かべて。