第1章 ファンタジー、だからね?
この状況を整理するにもしきれない。状況把握どころか思考がうまく追い付いていかない。
「えっと...社長、これは一体...。」
「わかるだろ?今この部屋にいるのは俺とお前だけだってことくらい。」
「それは、わかりますが...。」
「...俺に言わせるのは、まだ早い。」
そう社長が言った途端、下を向いていた私の顔、固まっていた身体が強く引き寄せられ、私と社長の唇が重なった。
「...んっ!!」
社長の唇の感触。何が起こったのか、これが現実なのか分からなくなってしまいそうなこの行為に、私の思考は停止していた。
唇が離れた瞬間、私は身体の力が抜けてしまった。
「はぁ...っ...。」
「フッ、そんな目をするくらい気持ちよかったのか?」
そう言われた瞬間、今までにないくらいの恥ずかしさが押し寄せてきて、顔から耳まで赤くなっていく感覚が自分でもわかった。
そんな様子を見て、社長はまた不敵に笑う。
「社長...どうして、こんなこと..。」
力が抜けてしまっている私は、社長室のこの広いソファーの上で社長の広い胸に顔を当てたまま、情けない言葉を発した。
すると、社長は私の顔をその大きな手で触れてこう言った。
「ファンタジー、だからね?」
社員皆が見ているようで、誰も知らない遊佐浩二の顔。
「お前も知ってるだろ?この会社は、ファンタジーで出来てるんだよ。」
説明にも答えにもならない返しをして、再び唇が重なった。
入社して4年目の春、秘密という名のファンタジーが、私に起こった。
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