第5章 N×A【ずっと、君だけに】
綺麗なお前を、
俺は汚すことなんてできない。
もうこれ以上、
近付けない。
─────近付きたい。
お前にいくら近付きたいなんて思っても、
汚れた俺は近付けない。
…どうしたらいい?
「ニノ、どうしたの?
気分悪い?」
さっきまで女優さんと話していた
雅紀が俺に駆け寄る。
大丈夫?だなんて…。
お前は俺に騙されているのに、
なんでそんなに俺に良くしてくれる?
「俺は、…お前の、ことっ…」
「ニノ…」
「こんなに、好きになるなんてっ…
思ってなかったから…」
お前にハマるなんて、
思ってなかったから。
「騙してっ、んのに…」
「…ニノ…」
なのに、なんで…?
「お前はなんでっ、俺にこんなに、
よくしてくれんだよっ…!」
言い切って、
雅紀が泣きそうなことに気付いた。
…俺は、俺はっ…。
お前にそんな顔させたくて、
言ったわけじゃない…。
ただ、己の無情さを
嘆いているだけ…。
雅紀の辛そうな顔を見てられなくて、
その場からそっと離れようとしたけど。
臆病な俺には、
それすらもできなくて。
雅紀が俺を必要としてくれることを、
心の底では願っていて。
…自分勝手なヤツだ。