第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「んじゃ、仕事程々にな」
「あ、ラビ」
「ん?」
仕事の邪魔はしたくないから、時間もそこそこに席を外す。
ひらりと軽く手を振ってラボを出ようとすれば、南に呼び止められた。
振り返れば、相変わらずのくたくたな白衣姿で珈琲の入ったマグを片手、付けペンをもう片手に。バリバリ仕事中ですって姿でこっちを見てくる目と合う。
「9日って確かお休みだったよね。その日、空いてる?」
「空いてるけど…なんで?」
「私その日さ、半日勤務だから。午後、ちょっと付き合ってもらっていいかな」
「いいけど…珍しいさな、半日勤務なんて」
このくっそ忙しい職場で、そんな日があるなんて。
物珍し気についまじまじと見れば、南は握った付けペンの尻でこりこりと頭を掻きながら笑った。
「まぁ、偶にはね」
ふーん…まぁでも、誕生日当日は一緒に過ごせねぇんだし。
前日でもそうやって南と少しでも一緒にいられるなら、嬉しいけど。
「ん、了解。じゃあ9日空けとくから」
「うん、ありがと」
ひらりと手を振って、ラボから出ていく。
何気なく振り返って見た南の顔は、昨日の炎天下で見た程、酷い顔はしていなかった。
そう、この日見た時までは。