第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
翌日。
中国任務を控えたオレは、それまでは非番の身。
だからその日は書庫室で読書したり、談話室でクロちゃんとチェスしたり、適当に一日を過ごした。
食堂で会ったアレンは相変わらず大量の飯を掃除機みたいに腹に詰め込んでて、デザートのみたらしをそれはそれは美味そうに食べていた。
いつも以上に、あんまり美味そうに食べるもんだから出来心で一口くれって言ったら、すんげぇ冷たい顔で「駄目です」の一蹴。
あそこまで冷たい顔しなくてもいんじゃね、アレンの奴…。
ほんと、みたらしが関わると人変わるよなぁ。
「お。昨日買った珈琲、早速役に立ってんさなー」
午後にはちょっと南の顔を見に科学班のラボに顔を出せば、早速真っ黒な液体の入ったマグカップを手に仕事する面々がいてつい笑ってしまう。
ほんと、一年中カフェイン摂取してんじゃねぇかな。
此処の連中って。
「ラビも飲む?」
「オレ別にブラック好きじゃねぇから、いいさ」
「そうなの? 美味しいのに…」
当たり前のように呟く南は、するすると濃い液体を喉に通していく。
…別にさ、自分が子供舌なんて思っちゃいねぇけど。
偶にこういうふとしたことで、南が大人なんだって思うと…早くオレも大人になりたいって思う。
別にさ、珈琲の好み云々で大人か子供かなんて決まる訳じゃねぇけど。
なんとなく、こういう時にふと感じる微かな"差"みたいなもん。
自分でも幼稚だと思う。
…でもオレが一つ歳を重ねても、結局その年に南も一つ歳を重ねるから、いつまでもその"差"が埋まる訳じゃない。
だからこそ早く大人になりたいと思う。
年齢だけじゃなく、精神的なものでも。