第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「海へ…行っていたのでは…ないのか…?」
ぽつりぽつりと空間を置き話しかけるのが、彼女の口癖のようなものだ。
そのゆっくりとした口調に合わせ、椛は呼びかけた。
「私の失態で、婦長さんにビーチ出禁されちゃったの。此処で涼んでいってもいいかな」
「それは…構わない…が…」
成程とアレンは内心頷いた。
椛が此処へ来た理由が掴めた。
ヘブラスカの広間なら、適度な空調のお陰で快適に過ごすことができる。
椛と二人きりという希望は叶わなかったが、心優しきヘブラスカなら共にいて苦ではない。
「怪我を…したのか…?」
「うん、少しだけ。でも歩けるよ。アレンくん、下ろしてくれる?」
「駄目です。無闇に歩かないことって婦長さんに言われたでしょ?また怒られますよ」
「でも…」
「だーめ」
「ふふ…お前達は…相変わらず…仲が良いな…」
嗜めるようなやり取りも、ヘブラスカには微笑ましく見えるらしい。
巨大な身形で、まるで花弁がゆっくりと開くように優しく微笑むヘブラスカに、つられて椛達にも笑顔が宿る。
「あのね、ヘブラスカに渡したい物があって…んしょ。これ」
「?」
笑顔のまま不意に椛が取り出したのは、大きな瓶だった。
「それ、昼間の」
「うん。海で見つけた綺麗な貝殻」
それはアレンの記憶にもあった。
浅瀬で椛が楽しげに夢中になって拾い集めていた色とりどりの貝殻だ。
しかしアクセサリーや写真立てにすると、確かクロウリーには言っていたはずのもの。
「アレンくんが方舟で繋げてくれた海がね、すっごく綺麗だったの。イルカやカラフルなお魚がいて、水の中も透明でキラキラしてて、空もこーんなに広くてっ」
「…そうか…それは良かったな…」
「そこで見つけた貝殻。ヘブラスカにあげる」
「私に…?」
「うん。ヘブラスカにも分けてあげたくて。私が見つけた宝物」
「椛、でもそれ…」
自分の為に集めたのではないのか。
そう問いかけようとしたアレンの声は、椛の瞳を前に止まってしまった。
椛が見ていたのはヘブラスカだけだった。
彼女に喜んでもらいたいが為に語る椛の瞳は、あの海のように輝いていたから。