第1章 きみどり scene1
目が覚めると真っ暗になっていた。
もう夜中かな?
ずいぶん寝てしまった気がする。
隣にいるはずの大野さんはいない。
携帯をみると、メール着信の通知。
やっぱり明日は休みになった。
心なしか外から聞こえる風の音は、激しくなったようだ。
「おーのさん……?」
呼びかけても答えは返ってこない。
さっきのことは全部、幻だったのかなぁ…。
そう思えるくらいの静寂だった。
寝室を出て玄関に行くと、大野さんの靴がない。
出かけちゃったのか…。どこ行ったのかな。
なんとなく動く気になれなくて、その場にうずくまる。
膝頭を抱え、玄関のドアを眺めた。
昔、両親をこうやって待っていたことがあるのを思い出した。
いつ帰ってきても飛びついて迎えられるように、いつまでもいつまでも玄関に座り込んでいた。
「あの頃と変わってねーじゃねえか…俺」
少し笑えた。
笑っていると、少し寂しくなった。
バタバタと廊下を走る音が聞こえたかと思うと、大野さんの部屋の鍵が乱暴に開く音がした。
ガチャっとすごい勢いで大野さんは帰ってきた。
「うわあ!か、かず!?」
「…びっくりしたぁ…」
「お、起きて平気なの?」
「平気だよ?だいぶ寝かせてもらったし」
よく見ると息を切らしている。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「いや、かずが目を覚まさないうちに帰ってこようと思って。でも間に合わなかったな。ごめん」
そう言うと、大野さんは俺の手をとって、自分の頬に付けた。
「手ェ、冷たい。ごめん。待った?」
「ううん。全然」
にっこりと笑った。
それを見て大野さんもにっこりと笑った。
すぐに靴を脱いで、俺をお姫様だっこしてリビングまで連れて行ってくれた。
「ねえ、いつからそんな力持ちになったの?」
「へ?俺、いつから非力になったの?」
「え?マジで?」
「いや、マジで」
そう言いながらソファに俺を下ろすと、早速ビニール袋から色々出し始めた。
「なにそれ?」
「んー?防災用品。俺一人ならなんとかなるけどさ。かずいるからさ。なんかあったらいけないと思って。今、慌てて買ってきた」
「え、そんな台風酷いの?」
「うん。なんか沖縄すごいことになってるってよ」
「そっか…そりゃ撮影も中止になるわな」