第5章 退紅(あらそめ)scene1
その日の帰りは、智くんは松潤の車に乗って帰ることになった。
今日は移動車が故障して出せないとのことで、車のない智くんに送迎が必要だったからだ。
タクシーでも良かったのだが、松潤が自ら送ると申し出た。
準備ができると、それぞれ楽屋を出て行く。
俺はまた、タブレットで調べ事をするふりで、智くんを見送る。
松潤が、智くんのために扉をあけ、ふたりで出て行く。
堪らず俺も立ち上がる。
楽屋の扉をでると、松潤が智くんの腰に手を回して歩いていた。
喉から嫉妬の塊が出てきそうだった。
そのまま、二人の後方を歩く。
エレベーターで、二人に追いついてしまう。
「あ、翔くん。もう帰れるの?」
松潤が、話しかけてくる。
「おお。もう一段落ついたから」
「あ、じゃあこの後飲みにいく?」
「いいや、今日はやめとくよ」
「そう?じゃ、リーダーいこっか?」
「俺、眠い」
「えー。俺、どっか行きたい気マンマンなんだけど」
「じゃあ、智くん、俺の車乗る?松潤は他誘いなよ」
突然、俺は口走ってしまった。
引き返せないことを口走ってしまった。
「あ、でも…俺送るってマネージャーに言っちゃったし」
「別にいいよ?俺は。翔くんさえいいなら」
そう言うと、松潤の腕に抱かれながら、智くんは俺に目線を向けた。
ゆっくりと。
その目は少し潤んで、目尻が赤くなっているのが、扇情的で。
そしてまた俺を見透かしていた。
嫉妬してるんでしょ…?
目はそう言っていた。
俺は目を逸らせなかった。
「じゃあ、翔くんにお任せしようかな」
松潤が結論を出す。
それとともに、俺の中にも引き返せない檻ができてしまった。
どうしよう。
なんてこと言ってしまったんだろう。
これまで、意識して帰りはふたりきりにならないようにしていたのに。
俺自身の箍が外れてしまうから。
「じゃあ、とりあえず翔くんよろしく」
そう言うと、松潤は俺の方に智くんを押しやった。
「もー松潤、俺、モノじゃねえんだよ?」
笑いながら智くんが、松潤の肩を一発殴る。
その後、誰にもみられないように、俺の手を取って自分の腰に回した。
そして、俺を見上げて、笑った。
誘うような、煽るような。
そんな微笑みだった。