第1章 女神、就職先を見つける
その男は、松野カラ松。
なかなか代金を支払わない事に腹を立てたチビ太が、人質にとった次男である。
カラ松「へっ!?」
そして、カラ松は自分が誰に助けられたか理解した。
視線の先には、ふよふよと空を飛ぶ女神の姿。
片手には『松野家』と書かれた地図を所有してる。
カラ松「ちょ、き、君……?」
「はいはい?」
女神は、ふよふよと宙に浮きながら後ろを振り向く。
カラ松「お、俺を助けてくれたのか……?」
「――はい、そうなりますね」
しかし、相手は女神。
人助けはしたものの、助けたのではなく、食いつなぐために仕事をしたのだ。
でも、カラ松の目は輝いている。
カラ松「俺の名は、愛の狩人、カラ松さぁ!! 嗚呼、君に出会えたこの時こそデスティニー!! 俺の幸運の女神様……、さぁ、名前を教えてくれ!!」
すると、ヴィクトワールは困ったように小首を傾げた。
そう、彼女は幸運ではなく勝利の女神だ。
「ごめんなさい、幸運は弟のほうなんです。私、勝利のほうでして……」
カラ松「へっ?」
自分の痛い発言を否定されないどころか、逆に同調され、カラ松は驚きのあまり固まってしまう。
「はた坊さんより、紹介を受けました。私は、第三級神勝利を司る女神、ヴィクトワールと申します」
ヴィクトワールは、祈るように両手を合わせて微笑んだ。
カラ松はと言うと、驚きのあまり腰を抜かしたままだ。
しかし、相手は仔リスのようにくりくりとした大きな瞳に、サラサラとした黄金の絹糸のような髪、少し動いただけで揺れる豊満な胸。
そう、絶世の美女である。
でも、カラ松以上に痛い。
パット見電波にしか見えない。
カラ松「麗しき女神様、俺に何か用かい?!」
しかし、相手はカラ松。
すぐ決めポーズを取った。
「い、いえ、引き止めたのは貴方の方かと……」
流石の女神でも、これには参る。
苦笑しながら、逃げるようにじりじりと下がり始めた。
本能が『コイツはヤバイ』と察したのだろう。
カラ松「フッ、この俺の相手は女神様……。そう、ビッグな俺にはビッグな相手が相応しい。正に、俺と君が出会う事はデスティニー!! この恋の狩人カラ松が君を撃ち落とし」
ヴィクトワールは、逃げ出した。
正確に言えば、弟の所へテレポートした。