第1章 第一章
「時音さん、どこまで行くのですか?」
宗次郎の手を取って走っている私に宗次郎が訊く。
おかしいな、下り坂を進んでるはずなんだけどな。
「なかなか町に着かないね・・・・・・ぜぇぜぇ」
息を荒げている私の声を聞いた宗次郎がいきなり私の手を強く引っ張る。
「きゃあっ」
私は宗次郎に引っ張られ、宗次郎の腕に抱かれていた。
「何をなさっているんですか。あなたは怪我人なんですよ」
宗次郎の顔が近い。
胸が高鳴る。
「あなたには怪我が治るまで走らせませんからね。移動の際は僕があなたをお運びします」
宗次郎がぎゅうっと私を抱きしめる。
「宗・・・・・・次郎・・・・・・っ」
たまらなくドキドキして体が小刻みに震える。
「寒いでしょ。僕の腕の中でしばらくこうしていてください」
うう・・・・・・震えたのは嬉しくてだよ、宗次郎っ。
「大好き・・・・・・」
「えっ?」
「ううん、なんでもない・・・・・・」
私は宗次郎の首筋に顔をうずめた。
「今、なんて?」
宗次郎が私に聞き返す。
「なんでもないよ・・・・・・」
本当は気づいて欲しい。私の想いに。
でも宗次郎に聞こえなかったならそれはそれでいいかな・・・・・・知られるのが少し・・・・・・少しだけ・・・・・・怖い。