第36章 君がくれる口づけは《カラ松END》
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それから、どのくらいの時間が経ったのだろう。
どうやら、わたしは、いつの間にか眠っていたらしい。
眠りから覚めた瞬間、自分がカラ松くんによって監禁されていることを思い出し、心が沈んだ。
「……カラ松くん。どこに行っちゃったんだろう……」
お腹……すいたなあ。
ずっと同じ体勢でいるせいで、身体も痛い。
喉もからからだ。
わたしは、首をひねって、手首を拘束している手錠を見た。
軽く引っ張ってみるけれど、そう簡単には外れそうにない。
「どうしよう……」
ここにずっといるなんて、もちろん嫌。
外に……外に出たい。みんなに会いたい。
わたしは、もう一度、手錠で拘束された腕を思いっきり引っ張った。
カチャンッ、大きな金属音が部屋の中に響き渡る。
幸い、足には何もつけられていないから、この手錠をなんとかすれば、外に出られる。
でも、どうやったら、この手錠をはずすことができるんだろう……
そのとき、わたしは、いつも耳の横につけているヘアピンの存在を思い出した。
身体をぐるりとひっくり返し、うつ伏せの状態になる。
そして、四つん這いのような体勢になって、なんとか拘束された手のところに頭をもっていく。
首が少し痛かったけど、なんとか指先で頭からヘアピンを抜き取ることができた。
……このヘアピン。
思い返せば、高校時代に、カラ松くんにもらったヘアピンだった。
青い花の飾りがついた小さなヘアピンは、大人になった今でも、大切な宝物で。使い勝手もよくて。ずっと捨てられずにいた。
気に入っていた、というのもあるけど、やっぱりカラ松くんにもらったものだから、というのが大きいんだと思う。
そのカラ松くんにもらったヘアピンで、カラ松くんによってつけられた手錠をはずして、カラ松くんのもとから逃げようとしているなんて、なんとも皮肉な話だ。
わたしは、ヘアピンを口に持ち替えて、手錠の鍵穴部分にヘアピンの先端を差し込んだ。