第11章 雨の味
「ねぇ、智…」
「どうしたの?」
ねだるような声を出してさ。
「抱き着きたい…いい?」
「珍しいね、雅紀がそういうこと聞くなんて」
いつもはそんなこと聞かずに甘えて来るのに。
「だって…コンサートのあとじゃん?
疲れてるのに無理させたくないなぁ、って…」
気まずそうに言った。
「ふふ、疲れてるのはお互い様でしょ?
でも俺は雅紀に甘えられた方が疲れが吹っ飛ぶんだけど」
グラスを傾けながら言う。
「じゃあ抱き着く!」
ギュッと力強く腰に腕を回した。
「あ…。
智の匂いいつもと違うね。
これが雨の匂いなの?」
首筋に顔を埋め、スンスンと鼻を鳴らしている。