第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「散歩ぐらいいいだろう?」
湖の横で、不思議そうな顔をする白粉
「じゃあ、兄さまに頼むもんっ!」
「こら。湖…まずは、その格好をどうにかしなさい」
湖は今、登竜桜からもらった着物を着ていた
あの佐助と似たような着物だ
「だって、動きやすいんだよ。これ」
「だって、じゃない。可愛い女の子が、そんな格好で出歩くんじゃ無い」
(成長に中身が伴ってないな…)
信玄は、深いため息をこぼした
「可愛いでしょ?すごく動きやすいし、馬にもすぐ乗れるよ!それに、兄さまとおそろいみたいで嬉しいの」
ふふっと笑う湖は着物を撫でくるりと回って見せる
「この破廉恥猫娘っ!!」
と指を指したまま首まで真っ赤に染めている幸村には、可愛く小首を傾げ
「はれんち?はれんちってなぁに?」
そう聞き返す始末だ
「…とにかく、その着物じゃない物にしておいで。そうしたら、馬で出かけよう」
「馬で?うん!着替えてくるっ!かかさま、行こっ!」
湖が信玄の部屋を出れば、幸村は「あの着物、処分だな」と天を仰ぎ
「娘を持つ父親の気分とは、こうも違うのか…」と、いつもの自分と違う言葉にため息を漏らす信玄
「…信玄様らしからぬ顔を見ました」
「目は潤う…だが、「ととさま」と呼ばれてしまえば、黙ってあのままの格好で出歩かせるわけにはいかないからなぁ」
あの格好の湖は、正直可愛い
が、線が出過ぎなのだ
多少とはいえ膨らんできた胸元
細い腰周り
細いとはいえど、男とは明らかに違う肉付きの太もも
危険である
「…織田の奴らには見せられんな」
「でも、伊達政宗と石田三成には見られてるですよね」
「ならなおさら、あれはもう着せられんな…」
はぁ…と、ふかーいため息をついた信玄(ととさま)が居た
(元気になったのは喜ばしいがな)
身体が大人になった湖
大人しかったのは、生理が終わるまでだった
終わってからは、いつもの通り態度が変わらないのだ
中身は、こどもだ
夜も変わらずなのだ
忍び込んでは、上に乗って眠る
白粉だけならまだしも、信玄、謙信はすでに餌食だ
佐助は上手にかわしているが、時間の問題だろう
「中身がともなわねぇ…」
(ほんとにな…)
幸村の独り言に、心の中で同意してしまう信玄だった