第7章 戸惑う心
救急車を降り、何人か赤タグ患者の処置を行い、近隣の病院に振り分ける。
ヘリで搬送する患者、救急車で搬送する患者。
当然だけど重症度に合わせて搬送方法を変える。
重症度と、それに症例に適した科があるかどうかも加味しなければいけない。
こちらのテントには赤タグの重症患者が居ないことを確認し、神崎の居るテントへと戻る。
「神崎、私がすることは?」
「そっちのテントの患者さんは?」
「重症患者の処置は終わってる。あとは搬送待ち」
テントへ脚を踏み込むなり神崎に尋ねる。
「そっちの患者さんお願い、多分心筋梗塞だから」
神崎の指示に従い治療を施していく。
大災害の場合は心筋梗塞の患者が多い。
ここに居る患者の半数以上がそれだ。
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その後別のテントを診ていた藤代とも合流し処置を行う。
日没間際、全ての処置が終わった。
だがヘリが飛べるのは、安全面を考慮して日の入りまでと制限がある。
となると飛べるのはあと1度だけ。
現在居る医師は神崎も含め5人。
途中機材と共にフライトナースの応援を呼んだからである。
つまりヘリに乗れるのは3人だけで、残りの2人は別の交通手段を用いて病院に帰らなければならない。
「さてと、じゃあ僕らはタクシーで帰ろっか。神那ちゃん」
「なぜ私が?」
不満に眉間にシワを寄せ、自分よりもいくばか高い神崎の顔を見上げる。
そこにはさっきまでの医者の顔をした神崎は居ない。
いつもの緩んだ笑顔だけ。