第19章 徹と涼
あまり長居をするのはシュリの体に障る為、涼と共に病院を出た。
「徹君…。」
帰り道、涼が話しかけてきた。
「徹でいいよ。」
「わかった。徹さ、大学休学してまでシュリの所に来たんでしょ?普通、そこまでする?」
涼の疑問は最もだ。
それに俺は…シュリに一つ嘘をついている。
俺は正当な理由があって大学を休学する訳ではなかった為、休学申請が通らなかった。
だから俺は…大学を辞めたのだ。
七瀬は最後まで俺を止めた。
そんな事をしてもシュリは喜ばない、と。
だけど、俺の意志は変わらなかった。
他にこの事を知っているのは父親だけだ。
「…あいつのことが好きだから。あいつにもしも何かあった時、埼玉にいたらすぐには駆け付けられないだろ。」
「そっか…凄くシュリのことが好きなんだね。」
そう言いながら、涼は泣き出した。
大きな瞳から大粒の涙を溢す涼を見て、驚いた。
「お前、なに泣いてんだよ。」
「なんか…神様って意地悪だね。徹はこんなにシュリを好きなのに…シュリだってきっと同じくらい徹のことが好きなのに、何でシュリを病気になんか…っ。」
神様って…こいつ、発言まで乙女チックだな…。
俺は溜め息をついた。
「…泣くなよ。めんどくせぇ奴だな。」
「徹だって本当は泣きたいんじゃないの?」
そう言われ、少しだけ胸が痛んだ。
「別に。俺が泣いてシュリの病気が治るならいくらでも泣くけど、泣いたって何も変わらねぇだろ。」
「そういう問題じゃないよ!僕はシュリが病気になって悲しい、辛い!だから泣くんだ!」
涼は声を張り上げてそう言った。
シュリが病気になって、悲しい、辛い。
確かにそうだ。
だけど一番辛いのはシュリだと思うと自分の感情なんて後回しにしてきた。
だけどこいつは…涼は、自分の感情に素直だ。
それを恥ずかしげもなく表に出す。
そう出来る涼が、少し羨ましかった。
「徹が泣けないなら、僕が代わりに泣くから。」
そう言って涼は周りの目も気にせず、気が済むまで泣いた。