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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


「他に何かない?彼女の住処とか、家族とか。何でも良いんだけど。」

泉の問いに、マツダは鉄塔の乱立する扇島中心部を指さした。


















完璧な空調が施された公安局であっても、夜の深い時間帯になればどこか寒々しい空気が充満する。
暗い廊下には刑事部屋から心許ない明かりがこぼれ落ち、夜勤中の刑事たちの疲労にまみれた感嘆が聞こえてくる。
その感嘆を切り裂くように、佐々山は一人、廊下を歩いていた。
向かう総合分析室――唐之杜志恩の城だ。
分析室の扉の前に立つと、赤く点灯する「LOCK」の文字が、佐々山を拒絶する。
当然だ、情報分析の女神は現在非番中なのだ。それはつい先程まで彼女と共にいた佐々山が一番良く知っていた。
佐々山は酔い潰れた志恩からくすねたIDカードを翳せば、その部屋へと足を踏み入れた。

「悪いな。あんたらのご主人様は、今俺の部屋でご就寝中だ。」

足を踏み入れた瞬間に、室内に自動的に明かりが灯り、各所に埋め込まれたモジュールがうなりを上げるが、佐々山にはそれがまるで主の帰宅を待ち侘びていた飼い犬のように思えた。

『マキシマ』

公安局のデータベースで、街頭スキャナーに検知され補導歴のある者、嬌声施設出身者の中に『マキシマ』に該当するものがいないかどうか検索する。数名の顔写真が表示されたが、そのどれもが佐々山が扇島で見たものとは異なった。
佐々山は短く息を吐くと、胸元から煙草を取り出し火を点けた。

「『マキシマ』、ねぇ――。」

煙と共に、言葉を吐き出す。
この銀髪の男が、なぜここまで自分の心に引っ掛かるのか、佐々山にはうまく言語化することができなかった。だがこの一連の事件、どうにも藤間一人のコネクションで行ったものだとは思えなかった。
そしてあの銀髪の男と擦れ違った時の、あの何とも言えない感覚。
それは勘を肯定する泉にも言えた事だった。
あの男を見た瞬間の、彼女は明らかに異常だった。

「――『マキシマ』と日向チャン、か。」

何気無しに呟いた言葉だった。
けれどもその瞬間、佐々山の中で第六感が動いた。
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