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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


「おい。」

睨み合っている慎也と佐々山を見ながら、泉は困ったようにため息を吐いた。
佐々山の行動に慎也がキレる――、毎度の事なのだ。だが毎度毎度その仲裁を任される泉としては溜まったものではない。
何せ慎也の機嫌を直すのは骨が折れるのだから。

「お前のやっている事は重大な職務規程違反だぞ!」

カラカラとファンだけが古風になり響くこの部屋に、慎也の声がこだました。
そう言えば今は何時だっただろうかと、泉は近くの時計を探す。
現在、午前2時15分。
帰ってシャワーを浴びてさっさと寝たい――。目下、泉の願いはそれだった。
だが今日のこの様子ではそれは叶わないだろう。
機嫌の悪い慎也に付き合っていたら恐らく夜が明けてしまう。
明日も常勤だったから最悪徹夜を覚悟しなければとそう思って、泉は呑気に欠伸をしている佐々山を思い切り後ろから蹴飛ばした。

「いってぇぇぇ?!何?!何なの?!俺、マゾじゃないんですけどぉぉ?!」

いきなり痛烈な蹴りをかまされ、佐々山は涙目で後ろの泉を振り返る。

「うるさいわね!私のこれからの寝不足を考えたら当たり前よ。」
「え?何?八つ当たり?ねぇ、日向チャン!それ八つ当たりだよね?」
「うるさい。慎也、とりあえず頭拭いて?風邪引いちゃう。」

ポケットからハンカチを取り出せば、雨に降られている慎也の頭を拭く。
ポタポタと雫を落とすスーツを見て、買い直しだなと泉は一人ごちた。

「か~、狡噛監視官サマは羨ましいねぇ。何でも日向チャンがやってくれるってか?」
「佐々山くん。」

余計な発言を控えろとばかりに泉が佐々山を睨むが、それより早く慎也が口を開いた。

「佐々山、お前そのタオルどうした?」

その言葉に、泉も佐々山の手にあるタオルに目をやる。
タオルには滲んだ文字で、「大山温泉スパランド」と印字されていた。

「さっき拾ったんだよ、扇島で。道に落ちてたからさ。あ、使う?」
「いらん!」
「あそ!」

慎也に負けない声で答えれば、佐々山はがしがしと自分の頭を拭き始める。
辺りに散って行く水飛沫を見ながら、泉はこれは誰が片付けるのだろうと考えた。
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