第31章 完璧な世界
――交われなかった、罪と罰。
「愛しさと憎らしさを折半しよう。どちらにも傾かないように。」
その頃、槙島に担がれたままの泉は槙島を見る。
「これからどこに行くの?」
「さぁ。どうしようか。一緒に地の果てまで行ってみるかい?」
「――それでも良いけど。それより傷の手当をさせて。このままじゃ聖護さん、死んじゃうわ。」
「――まだ止まるわけには行かないよ。」
胸から溢れる血を拭いながら、槙島は哀しそうに笑った。
「アンタがどうあっても槙島を殺さないのは?」
「違法だからです。犯罪を見過ごせないからです。」
「悪人を裁けず人を守れない法律を何でそうまでして守り通そうとするんだ?」
それは純粋な疑問だった。
慎也は答えを求めていた。
「法が人を守るんじゃない。人が法を守るんです。」
その言葉に、慎也は何も答えなかった。
「これまで悪を憎んで正しい生き方を探し求めて来た人々の想いが、その積み重ねが法なんです。それは条文でもシステムでもない。誰もが心の中に抱えてる脆くてかけがえのない想いです。怒りや憎しみの力に比べたらどうしようもなく簡単に壊れてしまうものなんです。だからより良い世界を創ろうとした過去全ての人達の祈りを無意味にしてしまわない為に。それは最後まで頑張って守り通さなきゃいけないんです。諦めちゃいけないんです。」
「――いつか誰もがそう思うような時代がくれば、その時はシビュラシステムなんて消えちまうだろう。潜在犯も執行官もいなくなるだろう。――だが。」
その瞬間、一台のトレーラーが走り出す。
「――朱!!」
トレーラーの後ろに飛びついていた朱を見れば、慎也は叫んだ。
朱はトレーラーのタイヤを狙って銃を撃つ。
見事にタイヤに弾が貫通すれば、トレーラーは横倒しになった。
地面に投げ出された朱は意識を取り戻せば、同時に槙島に頭を踏みつけられた。
「――いい加減、僕たちを侮辱するのは止めて欲しい。」
「聖護さん――!朱ちゃんを放して!」
いくつか骨が折れたのだろう。
泉は必死に立ち上がりながら、朱に銃を向ける槙島に訴えた。