第31章 完璧な世界
――そして、賽は投げられた。
「あんたのこと、実は嫌いでもなかったの。好きだなんて云わないけど。」
「この社会に孤独で無い人間など誰がいる?誰もがシステムに見守られ、システムの規範に沿って生きる世界には人の輪なんて必要無い。皆小さな独房の中で自分だけの安らぎに飼い慣らされているだけだ。――君だってそうだろう?狡噛慎也。誰も君の正義を認めなかった。君の怒りを理解しなかった。だから君は信頼にも友情にも背を向けてたった一つ自分に残された居場所さえ殴り捨ててここまで来た。――そんな君が僕の孤独を笑うのか?」
槙島の言葉に、泉は叫ぶ。
「違うわ!もうやめて、聖護さん!貴方も慎也も一人じゃない!」
「――そうだな。俺には泉がいた。お前だってそうだったんだろう?だけどお前は自分からその居場所を捨てた。違うか?」
幾分か冷静さを取り戻せば、慎也が言う。
「――確かに君の言う通りだ。泉の手を離したのは僕の落ち度だ。だからこそ、僕は君と言う男が酷く憎らしい。」
槙島はそう言えば、ナイフを振り上げて慎也に切り掛かる。
「君はどこまであの子の苦しみを知っている?僅か10歳の少女が背負った重荷が分かるのか?このシビュラによって歪められた世界であの子は色んな物を失った。」
「お前に言われなくても分かっている。――その重荷から俺は解放してやると誓ったんだ。その為にお前の存在は邪魔だ!お前がいる限り、泉は過去に捕われ続ける。」
吐き捨てるように言う慎也に、槙島は笑う。
「――それは嫉妬か?」
「そうかもな。俺はお前に嫉妬していたよ。」
その瞬間、二人の動きが重なる。
「――だがね。寧ろ僕は評価する。孤独を怖れないものを、孤独を武器にして来た君を。」
一瞬の隙を付いて、槙島が慎也を抑える。
「お前は成長が無いな。狡噛。」
振りかざしたナイフを避けて手を振れば、慎也のナイフが槙島を切り裂く。
血飛沫が辺りに舞った。
「もうやめてぇぇぇぇぇ!」
泉が叫んだ瞬間、何かの光が二人の間を引き裂く。
やがてその光は泉が捕われている柱をも打ち砕けば、泉は地面に叩き付けられた。