第20章 未来への扉
『今日は、ちょっと特別でさ。』
…予定外のプロポーズのこと、
夏希にも話して聞かせた。
『…でさ、その瞬間、
俺まで"ヤッター!"って叫びたくなって。
記念写真撮って…あ、今ごろ俺の代わりに
早瀬が二人に渡してくれてる頃か?
一生、忘れられないクリスマスだろーな!』
『…ねぇ、もりすけ』
『ん?』
『もりすけと一緒にいる、ってことは
これが当たり前、って慣れなきゃいけない、
ってことなんだよね。』
『…これ、って?』
『休みがバラバラ、とか
時間の予定がたたない、とか
クリスマスやバレンタインはお客様優先、
とか、そういうこと。』
そんなことないよ、
…と言い切れないのが、辛い。
『もしこの先、結婚して子供が出来ても
それは変わらない、ってことでしょ?』
…変わらない、な。
『…もりすけ、仕事、好きなんだね。』
『え?』
『すごく楽しそうに話すから。』
『ぁ、うん、そうだな。
だって、人生の大事な日を任せてもらって
一緒にその日に向かって準備してさ、
そりゃ、いい1日にしてもらいたいじゃん。』
『…私のことは?
お客様が喜ぶのが一番大事で、
私を喜ばせるのは、その次?』
…わかってる。
これは、夏希の本心じゃない。
かわいいヤキモチだ。
待たせた俺が悪いんだから
言いたいことを、言ってくれ。
『違う違う。夏希を大事にしたいから
仕事も頑張れるんだって。』
『…』
『夏希、言いたいこと、言って。
我慢しないって、約束したじゃん。』
『…あたし…なんか、いっつも待ってる。
全部、待ってる。』
『そうだよな、いつも待たせて、ごめん。』
『ホントはもっと、仕事したいんじゃないの?
私を待たせてるから、
無理して切り上げて来てるんじゃないの?』
『そんなことない。
だいたい、仕事なんてキリないじゃん。
夏希が待っててくれるから
早く区切りつけて夏希に会おう、
…って頑張れるんだって。』
怒ってる顔ではない。
泣いてる顔でもない。
拗ねてる顔でもない。
敢えて言うなら…
考えてる、顔。
何を考えてる?
わからないのが一番、イヤだ。
『夏希、何、考えてる?
頭の中で、自分で勝手に答え出すなよ。
ちゃんと言ってくれ。俺、ちゃんと答えるから。』