第14章 祝福の拍手
一年後。
『忠くん、緊張しすぎ!』
『だ、だって…おとーさん、恐い人だって…』
…今、俺はアキの家に、
結婚させてください、って挨拶に来ている。
畳敷きの客間に通され、
アキと並んで待っていると、
アキのお父さんが現れた。
『君が、山口君か。
アキから時々話は聞いてるよ。』
『は、はい。』
『アキより3つ、年下だそうだな。』
『はい。』
『まぁ、君は
アキより年下でも安定した仕事のようだし。
前のあの随分年上の金髪君より安心だな。』
…烏養さんのことだ。
『あの…その金髪の人は、俺の恩師なんです。』
アキが、"やめてよ"という顔で
チラッとこっちを向いたのがわかる。
でも、
これだけは、言わせて。
『確かに見た目とか、
ちょっとアレかもしれませんけど…
でも、俺はその人に、
人生で大事なことを
たくさん教えてもらいました。
アキさんとおつきあいするきっかけも、
その人…烏養さんからもらいました。
だから、烏養さんのこと、
悪く言わないで下さい。』
…横でアキが、
"あちゃー…"という顔をしてる。
でも、俺、言ったことに後悔してない。
もしこれで『帰れ!』と言われたら、
今日は、帰る。
でも、また来る。
結婚を許してもらえるまで、何度でも。
結婚を許してもらうことと
烏養さんの悪いイメージをスルーするのは
全く別の問題だから。
そんな気持ちでお父さんの顔を改めて見た。
『…そうか、彼は君の恩師か。
それは申し訳ない。
君の前で軽々しいことを言った私が悪いな。』
…予想外の返事に一番驚いてるのは
俺のとなりにいたアキだ。
『アキ、お父さんは、あの金髪君を
ダメだと言ったわけじゃないぞ。
ただ、お前のことを幸せにするために
彼がどのくらい、
自分の誠意を私に伝えようとするかを
知りたかったんだ。
結果として、
彼は彼らしく生きることを選んだ。
それは彼の選んだ道だからかまわん。
彼がいい人か悪い人かの問題じゃないんだ。
娘を幸せにしてくれるかどうか。
そういう意味では、
お父さんは、アキには、
山口君のほうが似合ってると思うよ。
山口君、アキを、頼む。』
『…は、はい!』