第28章 ・繋がる
「兄様が愛していると仰ってくださった云々(うんぬん)のことですか。」
若利はそうだと頷く。
「昨日お前はどう取ったのか聞いた訳だが、あの時お前は全て正直に言ったのか。」
何て事と文緒は思った。まさか若利がそこまで察するとは思わない。
「言いました。」
小さく答える文緒にしかし義兄は容赦がなかった。向かい側からごつい腕が伸ばされる。たちまちの内に文緒は若利の腕の中に捕まって逃げられない。
「ならばこちらを向け。お前は都合が悪かったり自信がないとあからさまに俺を見ない、声も小さい。」
いつの間にか学習されていた。自ら当初は文緒に無関心だったと言っていた人がどうしたのだろうか。思っているうちに無理やり顔を若利の方に向けられた。
「兄様。」
「いつまでもわからないと思ったのか。共に暮らし始めてからどれくらい経っていると思う。」
文緒を見つめる目は昨日と同じく逃げることを許さない。実際に何かする訳でもないだろうが逃げようものなら容赦しないといった圧力があった。
「もう一度聞く、どう取った。正直に言わぬような妹は必要ない。」
「そんな。」
ストレートに言う若利だけにそれはあまりに厳しい言葉だった。文緒は泣きそうになる。しかし言葉とは裏腹に若利が文緒を抱きしめる腕に力がこもっていた。
「言え。」
静かにいつもよりも幾分低い声で若利は言った。
「どうしても聞きたい。」
それは文緒に突き刺さった。ちょっと信じられないけれども義兄が切羽詰っている。ならばこれ以上隠し通すべきではない。だがほんの少し勇気が必要だった。文緒は一瞬だけ目を閉じる。目を開いた時にはちゃんと若利と視線を合わせていた。
「兄妹として言われたのだと取ったのは本当です。ただ、それ以上だったらいいのにと図々しくも望みました。」
若利の目が見開かれた。正直に言ったのは良いがどう思われたのか文緒はたちまちのうちに不安にかられる。
「そうか。」
息を吐くのと同時に若利は言った、まるで安心したかのように。
「それを聞きたかった。」
「兄様、どうなされたのです。」
「すまない、文緒。」
「え。」
急に謝られて文緒は戸惑う。本当にこの人はどうしたのか。