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My important place【D.Gray-man】

第38章 幾哀心



「ティムー、ティームー!」


 広い教団の廊下を歩きつつ、口元に手を当ててその名を呼ぶ。
 だけど見慣れた金色の丸い球体は何処にも見当たらない。


「全く…何処行ったんだ…」


 まさかまた師匠の事件部屋に行ったんじゃ…今月に入って三回目だぞ、もう…。


「あそこはあんまり行きたくないんだよなぁ…」


 またルベリエ長官がいたら嫌だし。
 …でもティムがまた雪さんを連れ回してたら、放っておけないしなぁ…。


「はぁ…」


 結局行くしかないかと、廊下の窓に手をついて溜息。
 そろそろ本気で、ティムの尻尾にでも縄付けておくべきかな…。


「……」


 そんなことを考えながら、ぼんやりと窓ガラスに目を向ける。
 綺麗に磨かれた新本部の窓ガラスは鏡のように、僕自身を映し出していた。

 その背後に映る、黒い人影もはっきりと。

 "影"と言うにははっきりと形作っているそれは、まるで黒い人物が上から服を着て傍に立っているようだった。
 服から見える顔も手も全て真っ黒で、明らかに異様なものだったけど。

 にんまりと笑った口元と、丸い人形みたいなふざけた目。
 この異様で不思議な人影は、僕がノアの方舟を操った時からはっきりとこうして映し出されるようになった。

 ──僕の目にだけ。





『お前は"14番目"のメモリーを移植された人間。"14番目"が現世に復活する為の宿主だ』





 …師匠が最後に僕に向けた言葉を思い出す。

 ノアの方舟を操ったのは僕じゃない。
 14番目のメモリーだと、そうはっきり師匠は言った。





『移植されたメモリーは徐々に宿主を侵食し、お前を"14番目"に変えるだろう』





 僕が僕じゃなくなる。
 そんなことを急に言われて"はいそうですか"なんて受け入れられるはずがない。

 兆しはあっただろう、と師匠は僕に告げた。
 その言葉ではっきり確信したんだ。

 この僕にしか見えない謎の黒い影は、"14番目"のメモリーの兆しだと。

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