My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「主の生きる目的を見失うな。他者に捧げるのが御主の人生か?」
「っ」
デザイアスの揺さぶりで、雪の心が不安定に傾いているのは知っている。
他者に尽くすことが悪いなどとは言わない。
しかし相手が悪かった。
ノアとエクソシストは相入れぬものよ。
「でも…じゃあ、私はなんの為に…」
不安定に揺れる雪の心を表すかのように、空間の温度が下がっていく。
その身を凍えさせないようにと、手を取り引き寄せた。
もう其処に畳もちゃぶ台も湯呑みも存在しない。
雪とワタシの二人だけだ。
「人生は長い。迷って当然だ。足を止めるのもまた一興」
「やっと、歩き出せたのに…?」
「進むのが正解だと誰が云った? 人生に無駄な時間などない。雪が迷い葛藤し荒んだ刻もまた、必要な時間だったのだ」
「…そう言われても…よく、わからないよ…」
「今はわからずとも、いつかはわかる」
涙の混じる小さな声。
支えである神田ユウを失えば、確かに御主は傷付くだろう。
しかしそれを乗り越えられれば、きっと強きノアとなれる。
「もう、失いたくないの」
子供のような声だった。
月城雪は、ロードやルル=ベルとは全く異なる女性だ。
誰をも惹き付けるカリスマ性も、類を見ない独自性も持ち得てはいない。
それでも我らがここまでして手に入れたいと思うのは、確かに雪の持つ人間性に在る。
「その為に我らがいる」
的確な表現は思い浮かばぬが、強いて言うならワタシが見てきたノアの中で、雪は誰よりも──"ひと"らしい。
だからこそ未知なる可能性を秘めている。
「主の世界は神田ユウの隣だけではない。それを知ることだ」
抱き寄せた体は、小さき子供のようだった。
その体が凍えぬようにと、包み込む。
迷ってもいい。
悩んでもいい。
傷付くことも、時には必要だろう。
そうして涙で濡れた地も、乾けば固くなる。
迷い踏み慣らした足場は、より強くなる。
「もっと色んなものに染まれ。そうして最後に、自分の色を見つけ出せればいいのだ」