My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
今、跨っている箒もそうだ。
見下ろすそれは細長く、ラビの鉄槌のように乗り心地は悪そうなのに不思議とそれを感じない。
まるで見えないクッションを尻に敷かれているかのように、安定したバランス感覚がある。
それが箒に掛けられた魔法によるものだと雪は知らなかったが、その奇妙な安心感は未知なる興味として惹き付けた。
自分の持つノアの力とは違う。
言葉通りの、魔法のような力だ。
「簡単だよ」
しかし雪の素朴な疑問に、あっさりと双子は答えを導き出した。
「それはユキが僕らの世界を、好きでいてくれてるからだろ?」
振り返ったジョージの目が、優しく細まる。
「魔法を目にしたマグルは、大体は信用しないか怖がるかだけど、ユキの反応は魔法界への愛みたいなものを感じたからね」
「僕ら以上に僕らの世界のことを知ってくれてたみたいだし。流石ポッタリアンユキ」
そこにいつものふざけた気配はない。
敬愛を込めて呼ぶ名に、ぱちりと雪は目を瞬いた。
「知らないから怖いんだ。でも僕らはユキのことを知ってる。ノアってやつはよく知らないけどね」
「僕らの知ってるユキが氷山の一角だとしても、だからと言ってそこを疑う理由にはならない。僕らは今のユキを知って、そして好きになったんだから」
心地良い風が青い空に舞う。
緩やかに雪の髪を、フレッドの服の袖を、ジョージの箒の先を揺らしていく。
穏やかな風に心を洗われるような、そんな錯覚に陥った。
「知らないから…怖い…」
フレッドの言葉をぽつりぽつりと復唱する。
(じゃあ、私も知れば…怖くなくなる?)
ノアの力に対して、歩み寄ろうなどと考えたことはなかった。
その未知なる力に反発して、自分の利益の為に利用しようと考えたことしか。
一生抱えていくものも、知らないままなら怖い。
理解して認めれば、我が物とすることができるのか。
認めて歩み寄れば、その力は自分の力となり得るのか。
「そっか…そうだよね」
頷く雪の声色が変わる。
上がる彼女の表情を見ると、双子は満足そうに笑みを揃えた。