My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「じゃあ、あの…ユウも休んでね」
手持ち無沙汰に水差しを軽く掲げて、先に会話を切り上げたのは雪だった。
部屋のドアを開けて入ろうとすれば、ガツ、と何かに引っ掛かる。
見下ろせば、ドアに足を掛けて開閉を止めているのは神田のブーツ。
「な、何」
「………」
「あ、ちょっ」
雪の静止を聞かずに、部屋の中へと足を踏み入れる。
厳しい眼差しで辺りを観察する神田に、気配を察したフォークスも羽毛を膨らませた。
「何してるの?」
「確認だ。念の為の」
「確認って…」
「あの赤毛達が言っていた魔術とやらの存在は認めたが、その力を信用してる訳じゃねぇ。またノア野郎から奇襲を受けたらどうする」
神田らしい思考に、同じく部屋に踏み入れながら雪はああと納得した。
ダンブルドアが現場の後始末をした時には既にノアの姿はなかったらしいが、彼らがこの地に残っていないという保証にはならない。
「じゃあ私も確認…」
「いい。お前は水飲んでろ。暑いんだろ」
窓の鍵を確かめながら外を伺う神田に歩み寄ろうとすれば、有無言わさず断られる。
こういう時は大人しく従うに限ると、ベッドに腰掛けるとコップに注いだ冷水を喉に流し込んだ。
喉の中を伝い体へと浸透していく、冷たい流水。
ほ、と自然と溢れる吐息に、深く呼吸を繰り返す。
不意に視線を感じて顔を上げれば、いつの間にか神田の目は雪を捉えていた。
じっと見透かすような目に、そわりと心が騒ぐ。
「何?」
「具合でも悪いのか」
「え?」
「この部屋は別に暑くない、適温だ。…熱は」
「ない、と思うけど…風邪の症状だってないし」
然程大きくはない部屋だ。
数歩で歩み寄った神田の手が雪の額へと伸びる。
熱を測ろうとしたのだろうが、触れた額はひんやりと冷たい。
聖痕の見当たらない額のその冷たさに、別の意味で神田は眉を寄せた。