My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「はぁ…」
置かれていたバスローブに身を包み、ゆっくりと息を吐き出す。
浴び続けたシャワーの賜物か、冷えた体には然程感覚がなく体の疼きも感じない。
このまま眠りにつけば、後は時間が解決してくれるだろう。
濡れた髪をタオルで拭きながら、脱衣所を後にする。
ぱたんと閉じるドアの音と、コツリと床を鳴らす足音。
重なった二つの音に、雪は目を止めた。
簡素なホテルの廊下は狭く、薄暗い照明の下ですぐにその姿を見つけた。
真っ黒な団服姿に戻っている、刀型のイノセンスを手にした人物。
「…ュゥ」
「………」
彼もすぐに雪に気付き足を止めたが、リナリーや双子のように感情の起伏は見せず静かに歩み寄った。
六幻を持っていない手にあるのは、水滴の付いた水差し。
リナリーの言付けを届けに来たのだろう。
「水だ」
「ありがとう」
水差しを受け取る雪を、神田はそのまま去ることもなくじっと見下ろした。
「顔が青白い」
「っ」
極自然な動作で、伸びた指先が雪の頬に触れる。
ぴくりと顔を強張らせる雪に目を止めたものの、それ以上に神田の意識を向けたのは肌の冷たさだった。
まるで極寒の地にいたかのような冷たさに、肌の青白さにも合点がいく。
「なんでこんなに冷えてんだ。湯冷めどころじゃねぇだろ」
「ぅ、うん…ちょっと、暑かったから水を浴びて…」
「暑いならそう言え。氷が必要か」
「あ、もう大丈夫!お水だけあれば…っありがとう」
今度は去ろうとした神田を慌てて引き止める。
それでも手は伸ばせず、両手で水差しを抱いたまま雪は控えめに笑った。
「あの…リナリーにもありがとうって、伝えておいて」
「ああ」
「それと…」
「………」
「………」
「なんだよ」
「……ごめん…ユウのこと、傷付けて…」
いつ雪に手を上げられたかなど、記憶を探す必要もない。
今回の任務で神田が負傷したのは、一昨日の出来事のみ。
ティキ・ミックと交戦し、ノアの力が暴走した雪を抑えた時だけだ。